エリク・H・エリクソンの『アイデンティティ:青年と危機 (Identity: Youth and Crisis)』は、青年期におけるアイデンティティの形成という重要な発達課題を中心に、その過程で生じるアイデンティティの危機について深く掘り下げた著作です。
本書の主な内容は以下の通りです。
- アイデンティティの概念: エリクソンは、アイデンティティを単なる自己認識ではなく、自己同一性、一貫性、連続性、そして他者との共有感覚を含む、複雑な心理社会的構成概念として捉えています。青年は、過去の経験、現在の自己認識、そして未来への展望を統合し、自分は何者であるのか、社会の中でどのような役割を果たすのかという感覚を確立しようとします。
- 心理社会的モラトリアムの重要性: 青年期は、社会的な役割や責任を一時的に猶予され、様々な可能性を探求し、試行錯誤する心理社会的モラトリアムの時期であると強調します。この期間は、自己発見とアイデンティティ形成に不可欠な時間となります。
- アイデンティティの危機: モラトリアム期間中に、青年は様々な役割や価値観の間で葛藤し、自己の方向性を見失うアイデンティティの危機に直面することがあります。これは、混乱、不安、孤立感、無力感などを伴う、正常な発達過程における一時的な混乱状態とされます。
- アイデンティティ形成の過程: エリクソンは、アイデンティティ形成が単一の瞬間的な出来事ではなく、生涯にわたる発達プロセスの一部であると捉えています。青年期におけるアイデンティティの確立は、過去の経験や他者との関係、社会的な期待など、様々な要因によって影響を受けます。
- アイデンティティの拡散(Identity Diffusion): アイデンティティの危機が適切に解決されない場合、青年はアイデンティティの拡散と呼ばれる状態に陥る可能性があります。これは、自己の一貫した感覚を持てず、役割や価値観が定まらない、不安定な状態を指します。
- 社会・歴史的背景の影響: エリクソンは、個人のアイデンティティ形成が、その属する社会や歴史的背景によって大きく影響を受けることを指摘します。社会の変化や価値観の多様化は、青年期のアイデンティティ形成に新たな課題をもたらす可能性があります。
- 臨床事例の分析: 本書では、エリクソンの臨床経験に基づいて、様々なアイデンティティの危機やその克服事例が紹介され、理論的な考察を深めています。
『アイデンティティ:青年と危機』は、青年期の心理発達における最も重要な課題の一つであるアイデンティティ形成の複雑な過程を、エリクソンの深い洞察力と豊富な臨床経験に基づいて解き明かした、発達心理学における古典的名著と言えるでしょう。青年期の心理を理解する上で、今なお重要な示唆を与えてくれます。

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