小此木圭吾氏と山本七平氏の共著『日本人の社会病理』は、1986年に出版され、日本社会が抱える特有の病理現象を、精神分析的な視点と日本文化論的な視点から深く分析した書籍です。単なる社会批判ではなく、日本人の深層心理や文化的構造に根ざした問題点を浮き彫りにしようとしています。
本書の主な内容は以下の通りです。
- 「甘え」の病理的側面: 土居健郎氏の「甘え」の概念をさらに掘り下げ、それが過剰になったり、歪んだ形で現れたりする際に、日本社会にどのような病理現象を引き起こすかを分析しています。例えば、責任の回避、依存心の強さ、集団内での同調圧力などが、「甘え」の負の側面として指摘されています。
- タテ社会の硬直性: 日本社会の根強いタテ社会構造(年功序列、上下関係など)が、個人の自律性や創造性を阻害し、組織の硬直化や不正の温床となる可能性を論じています。上意下達の構造が、下からの意見を抑圧し、問題の早期発見や解決を妨げる側面が指摘されています。
- 曖昧さと責任の所在: 日本社会における曖昧なコミュニケーションや意思決定のあり方が、責任の所在を不明確にし、問題が発生した際の責任追及を困難にしていると指摘しています。「みんなで決めたことだから」といった集団主義的な思考が、個人の責任感を希薄にする可能性が示唆されています。
- 同質性への過剰な志向: 日本社会が過度に同質性を重視するあまり、異質なものや異端を排除しようとする傾向を分析しています。これが、いじめ、村八分、外国人差別など、様々な社会問題の根底にある可能性が示唆されています。
- 「空気」による支配: 論理的な議論よりも、その場の「空気」や感情的な雰囲気が意思決定や行動を左右する現象を分析しています。「空気を読む」ことの重要性が強調される一方で、それが批判精神や合理的な判断を阻害する危険性が指摘されています。
- モラトリアムの長期化と病理化: 小此木氏自身の著作『モラトリアム人間の時代』の議論を踏まえ、青年期のモラトリアムが長期化し、社会への適応を困難にする病理的な状態について考察しています。自立心の欠如や社会参加への躊躇などが問題点として挙げられています。
- 伝統文化の負の側面: 日本の伝統文化に内在する要素が、現代社会の病理とどのように結びついているかを考察しています。例えば、遠慮や謙譲の美徳が、自己主張の抑制や問題の隠蔽につながる可能性などが議論されています。
本書は、日本社会の深層にある構造的な問題点を、精神分析と文化論という二つの視点から鋭く抉り出し、読者に警鐘を鳴らす内容となっています。出版から時間が経っていますが、現代の日本社会を理解する上でも示唆に富む一冊と言えるでしょう。ただし、あくまで1980年代の状況分析に基づいているため、現代の社会変化を踏まえた上で読む必要があります。

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